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高齢化と地方財政

執筆者 八田 達夫
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2017年3月
No. 2016-01
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内容紹介

日本の現在の制度の下では,高齢住民は,自治体に,大きな税収をもたらさないが,医療や介護などの高齢化対策費に多くの財政支出を余儀なくさせる。このことは,高齢者の多い自治体の財政負担を圧迫し,自治体サービスを低下させ,ますますの人口流出を促している。それだけでなく,受け入れ地方自治体が十分な施設を老人福祉計画で用意したくなくなるインセンティブを作り出すことによって,高齢者の地方移住を抑制することにつながっている。

本稿では,その問題を解消するために,高齢者への社会保険のための財政支出に関して,国と地方自治体の間で,どのような役割分担を行うべきかを分析する。本稿の目的は,自治体ごとに支給されるべき「モデル給付額」を算定することである。最終的な目的としての,年齢層ごとの「モデル給付額」だけでなく,移行過程において採りうる「過渡的モデル給付額」も算出する。

1.はじめに

本稿では,日本における高齢者への社会保険のための財政支出に関して,国と地方自治体の間で,どのような役割分担を行う制度改革をすべきかを分析する。

日本の現在の制度の下では,高齢住民は,住んでいる自治体に医療や介護などの高齢化対策費に関して多くの財政支出を余儀なくさせるが,税収はあまりもたらさない。高齢住民は,平均すれば,自治体財政にとって差し引き赤字をもたらす存在である。このことは,2つの問題を引き起こしている。

第1は,高齢者が多くなると自治体の財政負担を圧迫し,自治体サービスを低下させて,ますますの人口流出を促す。

第2は,地方自治体が,十分な高齢者施設を老人福祉計画で用意するインセンティブを削いでいることである。これは高齢者が,故郷であるとか気候が温暖であるといった理由で大都市から地方へ移住することを,難しくしている。

∗本稿は,八田(2016)を発展させたものである。したがって本稿では,問題意識の部分で前稿と共通した部分がある。本稿の作成過程では,北九州市役所の未若明氏・谷聡之氏・松尾知幸氏から,それぞれ有益なご教示を頂いた。またアジア成長研究所リサーチアシスタント保科寛樹君による計算や図表作成等に於ける協力を得た。御礼を申し上げたい。残る誤りは全て著者のものである。