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中華圏と日本におけるベンチャービジネスの発展

執筆者 岸本 千佳司
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2017年3月
No. 2016-07
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内容紹介

本報告書は、公益財団法人アジア成長研究所(AGI)の研究プロジェクト「中華圏と日本におけるベンチャービジネスの発展」(2016年度実施)の成果である。本プロジェクトの課題は、中華圏(今回は台湾に注目)におけるベンチャービジネス発展の状況、ベンチャー推進のための政策・支援体制について分析することである。加えて、日本の状況にも光を当てる。ベンチャー活動が盛んな中華圏(台湾)と消極的とされる日本の状況を対比し、其々の特徴を理解しつつ、ベンチャー活性化に向けた示唆を導き出すのが狙いである。今年度は、台湾と日本の其々について、近年の目立った動向、もしくは注目すべき事例について、現地調査を踏まえた地道なケーススタディの蓄積を目指した。

今年度の報告書は、2つの章から構成される。第1章は「日本のサービスロボット・ベンチャー企業-テムザック(tmsuk)社の事例研究-」と題する。北九州出身で、サービスロボット産業で注目されるテムザック社の事例分析である。限られたリソースしか持たない小規模企業の同社が、業界そのものの立ち上げをリードする先駆者としての役割を果たしていることに注目し、そのカギとなる大学研究者等とのオープンイノベーション・ネットワークについて詳述する。また、同社をネットワークの中核たらしめているコアコンピタンスとこれを支える経営組織・人材育成の特徴についても分析している。

第2章は「台湾におけるベンチャー・新事業推進体制の新展開-法規制改革と初期ステージ起業家支援の取組について-」である。ここでは、台湾におけるベンチャー・新事業推進体制について、ここ数年の目立った変化について注目する。主には、ベンチャー・中小企業促進のための法規制改革、および様々なアクターによる(主に)初期ステージ起業家向けの支援の取組について検討する。そして、台湾のこうした取組が、一面では、米国シリコンバレーなどの先進地域から広がった世界的な潮流に追従するものであると同時に、台湾特有の問題(若年層の雇用状況悪化、大学の予算的逼迫、IT・電子ハードウェア製造業中心の従来型経済成長モデルの行き詰まりなど)への挑戦という側面もあることが示される。

本プロジェクトの実施にあたって、各章で言及した企業や専門家、団体関係者の方々に多大なご協力をいただいた。また、当研究所事務局職員からもプロジェクトの運営に関して継続的な協力を得た。ここに記して、深甚なる感謝の意を表したい。