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少子高齢化社会における人口移動に関する研究

執筆者 田村 一軌
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2018年3月
No. 2017-10
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内容紹介

地域の人口変動は,出生と死亡の差である自然変動と,転入と転出の差である社会変動に分解することができる。地方の人口減少が解決すべき問題として議論されているが,自然増減を人口減少問題から考えることは,すなわち少子化問題・低出生率への対策を考えることである。これは長期的な視点を持って取り組むべき課題出ると同時に,地方が独自の努力によって解決する課題であると同時に,日本全体の共通目標として解決されるべき問題でもある。一方で,社会増減は転出超過の問題への対策を考えることであり,自然増減と比較すれば地方自治体にとって政策の対象として関与しやすい問題である。人口減少への対策の1つに,都市をコンパクトにすることが挙げられている。これは,都市をコンパクトにし人口が減少している地域の人口密度を維持することで,人口減少による様々な影響を緩和しようとするものである。そのような観点からは,都市の地理的な人口分布を把握し,その推移を観察することが重要であろう。地域内の人口分布は,出生や死亡はもちろん,地域外との転入出や地域内での転居によって大きく変化する。本研究では,地域内の人口分布を把握する指標として「人口重心」を採用し,北九州市におけるその推移を把握する。国勢調査の小地域統計を用いて,年齢階級別の人口重心の軌跡を求めた結果,特に門司区および若松区において人口重心が旧市街地から離れる方向に移動しており,必ずしもコンパクト化しているとはいえないこと,コーホート別の人口重心の軌跡を見ると,特に「20∼24歳」前後での移動量が最も大きいことが各区で共通しており,やはり高校・大学の卒業あるいは就職にともなう人口移動が地域に与える影響が大きいことが分かった。また,地方創生の議論において,東京への一極集中が批判されることが多いが,その大きな理由の1つは東京の出生率が低いことである。つまり,出生率の低い地域に人口が流入することが,日本の人口減少に拍車をかけているという議論である。確かに東京都の出生率は低いが,東京都は日本中の若者を引きつけ,そこで配偶者のマッチングを行い,家族として千葉・埼玉・神奈川などの周辺県へ送り出すという機能を持っている。福岡市も出生率が低いが,九州においては,日本における東京都と同じ機能を果たしているといえる。すなわち,九州一円から若者を集め,そこで配偶者をみつけ,結婚し子供が生まれると福岡都市圏に転居するという人口移動の構図が観察される。東京都や福岡市の出生率が低いのは,独身の若者が流入するとともに,子供を持つ世帯が流出することが強く影響していると考えることができる。このことからは,東京都あるいは福岡市は結婚市場として機能しているといえ,少子化の解消に貢献している面もあるといえ,そのような地域に人口が集中することが人口減少を加速させるとしても,その効果は割り引いて考える必要がある。その一方で出生率の比較的高い北九州市の世帯類型別の転入出状況を確認すると,東京都や福岡市のような明確な機能は確認できず,むしろ子育て世帯の受け入れ先としての可能性があると思われる。しかしながら,北九州都市圏の中心都市としての機能を高めるという観点からすると,若者を引きつけ世帯を形成する機能の強化が期待される。