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中華圏における次世代産業の進展

執筆者 岸本 千佳司
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2019年3月
No. 2018-04
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内容紹介

本報告書は、公益財団法人アジア成長研究所(AGI)の研究プロジェクト「中華圏における次世代産業の進展」(2018年度実施)の成果である。過去数年、半導体・電子産業でのアジア(特に台湾)企業によるキャッチアップ、ベンチャービジネス推進におけるアジアの積極的取り組みなどをテーマに研究を進めて来た。今回のプロジェクトもその流れに属するもので、特に中華圏(台湾、中国)の企業・産業の事例に注目した。本報告書は、次の二つの章で構成されている。

第1章は、台湾の「台達電子(DeltaElectronics)」の企業事例研究である。台達電子は、電源供給器をはじめとする様々な電機電子部品・コンポーネントのメーカーとして台湾を代表する企業である。当初、部品・コンポーネント単体の製造・販売が主体であったが、2010年頃から、それらをシステムとして取りまとめ顧客の現場に合わせて提供する(電気)エネルギーマネジメント・ソリューションに注力し始めた。さらに近年では、インダストリー4.0などの次世代のビジネスチャンスをつかみとるべく、大規模な経営改革を進めている。同社の主要生産拠点のある中国での労働力不足に対処するためにロボットの製造・導入を含む工場の自動化に取り組み、さらに自社工場での経験をもとにスマート製造ソリューションの提供を今後の事業の柱とすることを目指している。これは、従来型リーディング企業による次世代産業への適応の事例と言える。

第2章は、中国半導体(IC)産業の発展状況の概説である。IC産業自体は新興産業ではないが、インダストリー4.0/ビッグデータ/5G/EV等の次世代産業の発展を支えるキーパーツとして今後とも重視され続けるであろう。とりわけ、次世代産業で一気に世界の先端に躍り出ることを狙う中国は、先端IC技術の確立と国産化を悲願としている。本章は、今後中国のIC産業・次世代産業の研究に取り組む土台として、公表された統計データ・資料を用いて、中国IC産業の発展状況を概観し、初歩的な分析を施すことを課題としている。具体的には、中国IC産業の基礎データ分析(売上高、国内市場、国際貿易)、国内地域別発展状況、およびIC産業の各部門(設計業、製造業、パッケージ&テスト業の3部門)の発展状況を解説していく。

北九州との関連で言えば、第1章で扱った台達電子は安川電機の競合ともみなされる。当該産業分野で成長性に加え経営の健全性・堅実性の点でも、日本の優良企業に勝るとも劣らぬものであり、注目すべき事例である。第2章の中国IC産業の分析については、九州は「シリコンアイランド」とも呼ばれ半導体関連企業が多数集積していることに鑑みて、実務家向けの基礎的データの整理・解説としての意味もあるだろう。

本プロジェクトの実施にあたって、論文内で言及した企業・団体の方々に多大なご協力をいただいた。また、当研究所事務局職員からもプロジェクトの運営に関して継続的な協力を得た。ここに記して、深甚なる感謝の意を表したい。