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2019年消費税率引き上げの、全国および北九州における住宅需要抑制効果の測定

執筆者 八田 達夫
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2019年3月
No. 2018-06
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内容紹介

本研究は、2019年度の消費税率引き上げがもたらす住宅需要の落ち込みの予測を行うものである。その際に、今回の住宅課税優遇措置を考慮する。分析対象地区は全国および北九州市である。

1997年と2014年の消費税率引き上げは、それぞれ不況をもたらした。その主因は、住宅や自動車など耐久財への投資の落ち込みである。しかも、それが駆け込み需要への反動という形ではなく、恒久的な消費減少として観察されてきた。その理由はこうである。日本の消費税の仕組みでは、住宅や自動車などの耐久財を購入する時に支払わなければならない。その一方で、消費税率が上がるからといって、その耐久財をローンで買う人の借入れ可能金額が上がるわけではない。したがって、実質的な消費額を減らさなければならない。このことが原因で、他の消費財と異なり、ローンを組んで購入することが一般的な耐久財に関しては、消費税の影響が大きいのである。他の財については、消費税増が引き起こす実質所得減少にのみ対応して消費を変化させればよいのだが、耐久財については、借入額を増やせないために実質消費が実質所得効果以上に減少するという構造がある。

このことはこれまでも指摘されてきたが1、本研究は、消費税率の引き上げが住宅投資へもたらす抑制効果を数量的に分析しようというものである。そのためまず、住宅投資を説明するモデルを作る。これには消費税率だけでなく、金利や所得税減税措置などの変数を組み込み、さらにリーマンショックや「姉歯ショック2」についてのダミーを加えて分析している。このモデルは、決定係数が0.97と、かなりの制度で過去の住宅投資を説明できる。このモデルを用いると、1997年以降の消費増税および住宅ローン減税改革によって、2020年には民間住宅投資を単年度で14.6兆円に減少させることを示す。

さらにこれと同様モデルを北九州市について推定した。2019年10月に消費税率が引き上げられると、北九州市における約1,122億円の住宅資本形成(2016年時点)が、年間でおよそ35.7億円減少することを示した。