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日本における外国出身高度人材の就職地選択行動と影響要因

執筆者 戴 二彪
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2020年3月
No. 2019-01
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内容紹介

近年の日本において,少子高齢化の加速に伴い,留学生の受入れがさらに重視されると ともに,外国人の就労・定住に関する規制も大きく緩和されている。こうした背景の下で, 外国出身高度人材歓迎政策が各地で打ち出されている。しかし,大都市圏と比べ,多くの 地方圏自治体では,一定の政策効果があったものの,まだ期待されたほど大きくはない。 その原因の一つとして,多くの人材誘致策は外国出身高度人材の就職地選択行動を十分に 理解したうえで策定されたものではないからだと考えられる。

本研究は,聞き取り調査と統計データに基づいて,新卒外国人留学生をはじめ,日本に おける外国出身高度人材の就職地選択行動を考察した。さらに,都道府県レベルのパネル データと固定効果モデルを用いて,外国出身高度人材の就職地選択行動に対する目的地の 地域特性による影響を検証した。主な分析結果は,次のように要約できる。

(1) 日本における外国出身高度人材の地域分布は,地域の労働市場規模を反映する地域 総人口,地域の異文化に対する寛容度(多文化共生環境)を反映する総人口におけ る外国人の割合,および地域の雇用機会を反映する有効求人倍率,の三変数(要因) に大きく影響される。特に地域総人口の影響は最も顕著である。

(2) 上述した三大要因による影響は,高度人材のカテゴリーによって若干異なる。新規 就職の外国出身高度人材全体と比べ,日本国内の労働市場状況などを相対的によく 把握している留学生の就職地選択においては,地域総人口と地域有効求人倍率の影 響がより顕著である。一方,外国出身高度人材全体の就職地選択・居住地選択(特 に後者)においては,総人口における外国人の割合の影響は,留学生の就職地選択 における同影響よりも顕著である。

(3) 留学生・外国出身高度人材全体の就職地選択・居住地選択行動において,地域所得 水準や家賃水準は,統計的に有意な影響を与えていない。 進国や国内大都市圏の事例・経験を参考にし,伝統文化を大切にしながら多文化 共生の環境づくりを重視しなければならない。

以上の分析結果から,外国出身高度人材の受け入れを推進している地方圏自治体にとっ て,次の政策示唆(インプリケーション)が得られる。

③ 国内在住の留学生と海外の高度人材のそれぞれの長所・短所及び就職地選択行動 の特徴を理解したうえ,地域のニーズに合うグローバル人材戦略を構築すべきで ある。 ④ 大都市圏よりも少子高齢化問題が深刻になっている地方圏の有効求人倍率は,近 年かなり高くなっているものの,求職者に周知されていない。デジタル時代に相 応しい人材リクルート方法の改善と人材戦略における産学官連携の推進は,地方 圏の企業・大学・行政の急務である。

上述した分析結果と政策示唆を踏まえて,最後は,地元北九州市の海外人材受入れ・ 定着促進政策に関して,いくつかの対策を提言した。