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大都市への人口移動の決定要因としての 地方人口と地域間所得格差

執筆者 八田 達夫, 田村 一軌
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2020年3月
No. 2019-06
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内容紹介

1970年前後から、地方圏から大都市圏への人口純移動は急激に減少した。このことは、それに伴って起きた、日本の経済成長率の急激な低下の原因であると考えられる。この都市への人口移動の低下の原因としては、①地方人口の減少(いわゆる余剰人口の枯渇)と、②1970年代中盤以降の「国土の均衡ある発展」政策による地方への再分配によって生じた都市と地方との賃金差の縮小とが考えられる。本研究は、これら2つの要因の相対的な大きさを、計量的に明らかにするものである。

まず基本データの推移に関しては、次が観察された。

1.地方圏から大都市圏への人口純移動は、1970年から75年にかけて急激に減少したが、その要因の一つは、逆方向への、すなわち大都市から地方への、人口(粗)移動が増えたことであり、地方から大都市への人口(粗)移動の減少は、純移動の減少の7割程度であった。

2.地方圏の総人口は、2000年まではトレンドとして増加し続けた。

3.したがって1970年から75年の間は、地方圏の人口が増加したにもかかわらず、地方圏から大都市圏への人口移動は減少した。

4.一方、地方圏の中学校・高等学校の新卒者のうち、就職した者の数はこの期間に38%減少したが、大都市圏へ就職移動したものの数は、41.5%減少した。

5.この間の地方圏から大都市圏への人口移動のうち、中・高新卒者の割合は、全体の3割未満に過ぎなかった。地方から大都市圏への人口移動の大きな割合は、中学・高校の新卒者以外であった。

これらの観察に基づき、地方から大都市への人口移動を、地方の人口、前年の失業率、前年の都市と地方の一人あたり所得比率、過去9年のこの比率の平均値で回帰し、0.9を上回る決定係数を得た。この式を用いて、所得比率が地方に有利に変化したことが、大都市への人口移動の減少の大部分を説明することを明らかにする。さらにこの所得比率の地方にとっての改善は、地方の一人あたり行政投資が都市に比べて飛躍的に増加したことによこれらの観察に基づき、地方から大都市への人口移動を、地方の人口、前年の失業率、前年の都市と地方の一人あたり所得比率、過去9年のこの比率の平均値で回帰し、0.9を上回る決定係数を得た。この式を用いて、所得比率が地方に有利に変化したことが、大都市への人口移動の減少の大部分を説明することを明らかにする。さらにこの所得比率の地方にとっての改善は、地方の一人あたり行政投資が都市に比べて飛躍的に増加したことによることを示す。