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東アジア地域におけるスマートシティ開発に関する調査研究

執筆者 田村 一軌
所 属 アジア成長研究所
発行年月 2021年3月
No. 2020-08
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内容紹介

近年AIやIoTに代表されるICTの進展にともない,それらを都市に実装することで効率的な都市運営を目指す「スマートシティ」が注目を集めている。本研究の目的は,北九州市の特性を踏まえ,北九州市におけるスマートシティを検討する際に有用となる資料を提供することである。そのため,日本・中国・台湾における先進事例を調査し,それぞれのプロジェクト内容を整理する。

中国では,杭州市の事例を取り上げた。杭州では,「ETCity Brain」という都市管理システムを導入している。例えば,道路の沿線にカメラを設置し,混雑状況をAIで把握した上で,交通信号の間隔をリアルタイムで最適化し,全体的な渋滞を緩和する。さらに,この混雑情報を活用して,警察・消防・救急などの車両に統合的な指令を出す。また,この情報をもとに,公共交通の乗客の遅延率を監視して,バスの本数や経路を調整し,タクシーの配車を制御している。さらに,携帯電話などのデータを利用して,新型コロナウイルス感染を制御するなど,公衆衛生などの分野でも実績を挙げており,中国第一の「デジタル管理都市」と評価されている。

台湾では,台北市の事例を取り上げた。台北市で行われているプロジェクトの例を挙げると,スマート交通プロジェクトでは,市内の駐車スペースの空き情報を正確に把握し,情報提供するサービスを行なっている。スマート健康プロジェクトでは,独居老人とオンラインで週に1∼2回コミュニケーションを取ることによって,心身の状態を把握している。スマートシティ推進のためには,政府と民間との橋渡しをするプラットフォームの役目を担う組織として「台北市スマートシティ・プロジェクト事務局(TPMO)」を立ち上げ,市民のニーズをみ上げている。

日本では,スマートシティの先進都市とみなされている複数の都市のプロジェクト内容を整理した。日本では,各都市が,さまざまな省庁の事業目的の異なる補助をうまく組み合わせる必要があるため,トップダウンの仕組みになりがちであることなどの課題が明らかとなった。

最後に,北九州市のスマートシティについては,北九州市の強みである「環境・エネルギー分野」におけるプロジェクト推進の参考になる事例を紹介している。第一は,藤沢市におけるごみ収集データの計測である。車載機器およびアプリ開発によって,地域別のゴミの特性の分析をすることで,地域別のごみ減量に活用できた。さらに,この機器によって不法投棄等の位置情報を共有でき,その処理が迅速に可能になった。第二は,道路沿線にカメラを設置することで渋滞状況を把握し,救急車が最短時間で病院に到着できるよう道路信号を制御する,モスクワでの事例である。

スマートシティ推進においては,トップダウン/テクノロジー主導型の取り組みではなく,ボトムアップ/課題解決型の取り組みが望ましいことが指摘されている。北九州市においても,市民参加型の取り組みによって需要をみ取り,真に役立つスマートシティを目指すべきであろう。