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東アジアにおける環境政策の効率性評価に関する研究 :マレーシア・クアラルンプール、広島市を例に

執筆者 松岡 俊二, 白川 博章, 本田 直子, 竹内 憲司, 松本 礼史
発行年月 2002年 5月
No. 2002-10
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内容紹介

本研究は、環境政策の効率性評価について、特に政策の社会的便益の評価手法である確率的生命の価値(Value of Statistical Life: VSL)に焦点を当て、経済発展の異なるマレーシア・クアラルンプールと広島市においてVSLの推計を行う。対象としたリスクは大気汚染による健康被害であり、レファレンス・ケースとして交通事故に関するリスクについても調査した。発展途上国における仮想評価法(Contingent Valuation Method: CVM)の適用可能性を検討するとともに、経済発展の段階により人口特性の与える影響がどのように変化するかについて検討を行った。

これまで、死亡リスク削減の経済的評価に関する研究は、欧米を中心に行われている。発展途上国、特にアジア諸国を対象にした研究は少なく、また推計方法は賃金リスク法である(Hammittetal.2000,Simonetal.1999)。賃金リスク法は、人々はより高い賃金を得るためにより高い労働災害を受け入れるといった行動をすることを前提としている。しかし、発展途上国の場合には職業選択の余地が一般に少なく、この前提条件には疑義が残る。それに対して、CVMはアンケートを用いて支払意志額を推計するため、他の評価手法と比べて適用できる範囲が広い。しかし、不適切なアンケートの設計はバイアスを生む。また、市場経済が発達していない発展途上国では、スコープ無反応性とよばれる死亡リスク削減幅が変化したにもかかわらず、支払意志額が統計的に有意に変化しない現象が起きる可能性がある。

本研究の結果、以下の点が明らかになった。第1に、クアラルンプールにおけるVSLは30万ドル~65万ドル(大気汚染による健康リスク)、19~35万ドル(交通リスク)であった。広島市におけるVSLは314万ドル~432万ドル(大気汚染による健康リスク)、529万ドル~699万ドル(交通リスク)であった。第2に、死亡リスク削減に対して影響を与える人口特性としては、所得、年齢、教育水準、などがあげられ、それらの正負の符号はクアラルンプールと広島市では一貫性があった。第3に、スコープ無反応性の検定については、ドットをビジュアル・エイドとして用いた場合は1%水準で棄却でき、発展途上国においてVSLをCVMで推計することは可能であるという結論を得た。ただし、リスクラダーをビジュアル・エイドに用いた場合は、スコープ無反応性を棄却することができず、リスクラダーの改良、サンプル数の増加などを行い、再度検証することが必要である。