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台湾の堅実経営企業 台達電子(Delta Electronics)の研究-電源・電子部品からエネルギーマネジメント・ソリューションへの展開-

執筆者 岸本 千佳司
発行年月 2019年 2月
No. 2019-03
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内容紹介

本研究は、台湾の「台達電子(Delta Electronics)」(以下、「台達」と略記)の事例研究である。台達は1971年に社員15人の町工場として創設され、その後ほぼ一貫して成長し、2017年時点で、全世界で従業員数約8万7,000人、売上高約73億4,500万米ドルの大企業グループとなっている。主要製品は電源供給器をはじめとする各種電機・電子部品で、近年ではそれをシステムとして提供し、省エネ・低炭素化に資する電気エネルギーマネジメントのソリューション・ビジネスを展開している。

持続的な成長性の背景には、創業者の鄭崇華(Bruce C.H.Cheng)氏の経営哲学を反映した堅実な経営姿勢がある。本研究では、①ものづくり企業としての堅実性(主力製品・事業の変遷・拡充、海外展開、研究開発体制)、およびそれを支える②企業経営での堅実性(企業グループの組織運営、人材経営、環境経営)の2側面に分けて分析する。

分析の結果、①については、創業当初からの研究開発と品質管理の重視、それに基づく顧客への迅速な対応と手厚いサービス、そして早くから欧米顧客の開拓へと進んだ国際性の強さが見出された。これを土台に、1970年代以降、様々な応用製品市場(家電、ICT、グリーンエネルギー、産業自動化、グリーン建築、EV等)が次々と勃興してきたことを背景に、着実に製品の拡充・多角化を進めてきたのである。堅実さの表れとして、既存製品とのシナジーを活かしつつ、高付加価値・高利潤の市場を常に開拓し、しかも製品の性能向上にも継続的に取り組んできたことが指摘される。

②については、グローバルに展開した企業グループ統合の仕組み、人を大切にし社員の学習と創意工夫を奨励する人材経営、および積極的な環境経営へのコミットメントが明らかとされる。とりわけ環境経営は、台達にとって、単なる時流に合わせた付随的な取り組みではなく、同社の経営理念である「環境保護省エネ地球愛護」(「環保節能愛地球」)を実現するための不可欠の一環として行われていることが示される。

最後に、近年本格化した大規模な経営改革についても分析する。これには、中国等の新興競合企業の追い上げを背景に、これまでの環境エネルギービジネスに加え、次世代産業(インダストリー4.0/ビッグデータ/5G/EV等)勃興に伴うビジネスチャンスをつかみとろうとする狙いがあることを示す。新事業展開として、とりわけ、スマート製造ソリューションが今後の成長分野として期待されている。