メディアとAGIの会

第16回「メディアとAGIの会」

    アジア成長研究所(AGI)は、2013年7月から新聞、テレビ、ラジオ、電子媒体など北九州で活動するメディアとの交流会「MAGI会」(メディアとAGIの会、2014年9月までの「イクメ会」を改称)を原則として月1回開いています。私どもの活動内容を地元メディアの皆さまにご認識いただき、広く地域社会にお伝えいただく一助とするとともに、メディアの皆さまとの意見交換を通じて地域社会の最新の情報ニーズを把握し、今後の活動に役立てるためです。

    第16回「MAGI会」(メディアとAGIの会=「イクシアードとメディアの会<イクメ会>を改称)

    2014.12.17(水)18:00~20:00@AGI会議室(北九州市・大手町のムーブ6階)

    話題提供者:戴 二彪 研究部長兼主席研究員

    テーマ:「アリババと孫正義」

    出席メディア:RKB毎日放送、NHK、時事通信社、西日本新聞社、毎日新聞社、ヤフーニュース(50音順)

    magi16-1 アリババ・グル―プ(阿里巴巴集団)は中国・杭州市に本社を置く中国ないし世界最大の電子商取引(electronic commerce)企業です。創設者で会長の馬雲(Ma Yun、ジャック・マー)氏が1999年に設立し、2014年9月にはニューヨーク証券取引所に上場しました。時価総額(2014年11月)は約2550億ドル(約30兆円)と、ウォルマート・ストアーズなどを上回り、ゼネラル・エレクトリック(GE)などとほぼ同水準の世界トップ10に入っています。米市場に上場する中国企業では中国移動(チャイナモバイル)と並ぶ最大手企業です。
     馬氏はたまたま私と同じ浙江省杭州市出身で、年齢(50歳)的にも同世代です。中国では馬氏の人気が大変高く、彼に関する本は常にベストセラーになっています。中国のIT(情報技術)企業の経営者は米国の名門大学に留学した帰国組が多く、エリート意識が強くプライドが高いのに対し、馬氏は数学が不得意で中国の大学入学試験に2回失敗し、いろいろな社会勉強を経て杭州師範大学(外国語学部英文科)を出た国内組です。こうした経歴からか、大変腰が低いのが馬氏の強みです。
     1995年に中国初のビジネス情報発信サイト「中国イエローページ」を開設、98~99年に中国政府の国際電子商務中心に勤務し、中国のインターネット商品取引市場を開発した後、独立し、郷里の杭州に研究開発センター、香港に本部を置く電子商取引会社「アリババネット」を立ち上げました。中国で電子商取引、とくにBtoB(企業間の取引)ビジネスを開拓したわけです。現在、B to B(企業間の取引)だけでなく、B to C(企業と消費者の取引)、C to C(消費者間の取引)のオンライン取引プラットフォーム、決済サービス、など多様なオンラインサービスを提供しています。
     日本ではあまり知られていませんが、アリババの筆頭株主は孫正義氏が率いるソフトバンクです。株主構成を見ると、その持ち株比率はアリババの米上場時で34.4%、2014年11月現在で32.4%です。第2位株主は米ヤフー。かつては24%に上っていましたが、上場時には20%超、2014年11月には16.3%と徐々に低下しています。ちなみに馬氏自身の持ち株比率は7.8%(2014年11月現在)で、第3位株主です。
     孫正義社長との出会いは2000年。孫氏は馬氏を即座に気に入り、2000万ドル(約24億円)の出資を提案しました。馬氏はいったん断りましたが、米国、日本でのIT企業経営の経験が豊富な孫氏からアドバイスを受けられることを重視し、結局、この提案を受け入れました。以来、孫氏と馬氏の親密な関係が続いています。アリババの米上場に伴い、アジア長者番付では馬氏が200億ドル(約2兆4000億円)で1位、孫氏が160億ドル(約1兆9300億円)で2位と並んでいます。
     孫氏は2000年に中国法人「軟銀中国資本(SBCVC)」を設立し、実弟の孫泰蔵氏をトップとして派遣しました。中国では、情報通信分野について外国直接投資への規制が厳しいですが、孫正義氏の巧みな所は、「私の祖先は思想家・軍事家の孫武(いわゆる孫子)」(2008年)と称したことです。その真偽のほどはともかく、中国で今なお尊敬されている紀元前6世紀(春秋戦国時代)の大思想家の末裔を名乗ることで中国との一体感のPRに成功したわけです。
     馬氏と孫氏のケースからグローバルな舞台で活躍できる起業家の資質を考えましょう。第一の要素は個人の素質です。高い志と学習能力、グローバルな視野(海外経験)、事業に対する持続的な情熱(Never give up)、リーダーシップが必要だと思います。馬氏はたまたま大学受験で挫折しましたが、大学進学が困難だった1980年代に進学できた人なので、決して(一部の報道で描かれたような)劣等生ではなく、学習能力はかなり高いと思います。また、外国語学部英文科卒業した後、杭州電子工業大学(現杭州電子科技大学)で英語講師として勤務する中で、IT産業の国内外最新動向と世界経済の潮流を敏感に捉える能力を養いました。孫氏も久留米大学付設高校から自分の意思で渡米し、カリフォルニア大学バークレー校への留学でも前例のない英和辞書使用と時間延長での入試受験(数学試験)を州知事に直訴し、合格をもぎとった努力家です。ただ、注意すべきはリーダーシップです。これだけは受験では身につかない資質です。人と接触し、もまれる中でしか磨かれないのです。
     2つ目の要素は事業環境です。これは成長産業を選び、創造都市(創造性を尊ぶ都市)で活動する必要があります。そのキーワードは「3T」。Talent(人材)、Technology(技術)、Tolerance(寛容な環境)です。優れた人材と高い技術、それに起業、ニュービジネスに対して寛容な環境に恵まれないと、グローバルな起業家・企業はなかなか育ちません。世界的なIT起業のメッカである米シリコンバレーは、まさに3Tをすべて備えています。孫氏は幸運にもそこから創業しました。馬氏も浙江省の優れた起業環境に恵まれたと思います。
     3つ目の要素は事業展開先との良好な関係です。馬氏、孫氏ともに腰が低く、ビジネス・パートナーや社会各界と良い関係を築く能力に長けています。

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    中国と日本を代表する起業家で、両国の長者番付1位である馬雲氏と孫正義氏の知られざる結びつきを説明する戴二彪AGI研究部長兼首席研究員

    【主な質疑応答】

    Q「戴先生も馬雲氏も浙江省の出身だが、浙江省は事業家を輩出し、「浙江商人」などと言われる。その理由は何か?」
    A「浙江省は長江(揚子江)下流の三角州「長江デルタ」に位置し、農業生産環境(温暖な気候、豊富な降水量など)に恵まれ、昔から中国有数の豊かな「魚米の郷」だ。近代では、沿海地域として早くから海外との交流が開始し、産業・商業が発達した。江蘇省と浙江省の出身者を合わせて「江浙人」と言うが、江浙人は勉強熱心で勤勉なことで有名だ。歴史的にも科挙の最高得点者(いわゆる「状元」)の中に江浙出身者が圧倒的に多い。高い学習能力と経済力を生かし、モノづくり・起業にも熱心だ。こうした風土の中から果敢に事業に投資をして、財をなす「浙江商人」が生まれてきた。隣接する中国最大の都市、上海の20世紀前半(社会主義中国の成立前)の歴代商工会会長の約8割は浙江省出身だった。こうした伝統の影響で、中国で市場経済体制が再び導入された1990年代以降、浙江省は中国31省の中でも民営企業が一番発達している省となっている。」

    Q「馬氏が孫氏と出会ったきっかけは?」
    A「孫氏は日本を代表するIT経営者として有名で、米ネット検索エンジン大手ヤフー(Yahoo!)の共同創業者である楊致遠(Jerry Chih-Yuan Yang、ジェフリー・ヤン)氏と親しい。2000年に孫氏と華人系の楊氏が中国に招かれたときに、孫氏は馬氏に初めて会ってすぐ意気投合。「あなたの会社に投資したい」と申し入れた。起業家として相通じるものがあり、ピンときたのだろう。」

    Q「アリババは中国で伸びているが、世界ではどう成長していくのか?特に米国をどう攻めるのか?」
    A「アリババは日米企業が大株主になっている多国籍企業で、世界舞台で活躍できる多様な優秀人材を擁している。ニューヨーク証券取引所での上場をきっかけに、アメリカをはじめ、世界市場でも成長していくと思う。ただし、恐らく中国国内のように急速に成長することはできないと思う。実は、中国国内でも問題が起きている。上場に伴って、にわかに反アリババの声が高まっている。ネット上の店舗であるアリババが伸びれば伸びるほど、リアル(現実)の店舗の倒産が増えるからだ。ネット企業への規制が今後、中国の論争になるだろう。習近平主席が浙江省のトップ出身であることからアリババを擁護しているとみられるが、アリババが中国の電子商取引市場の約6割を占める寡占状態にあることから、独禁法の問題は避けて通れないだろう。
     私見だが、米国や日本など海外ではアリババの諸事業が中国国内のように順調に展開できないと思う。アリババのような中国企業に対して、電子商取引の決済に不可欠なクレジットカードを使うことや個人情報の漏えいへの警戒感が根強く存在していることも大きな要因の一つだ。偏見かもしれないが、それを取り除くためには大変な努力が必要だろう。」

    Q「アリババの筆頭株主はソフトバンク社なのか、それとも、孫正義社長個人なのか。」
    A「私が入手したアリババの会社案内ではソフトバンク社になっている。」

    (協力研究員・江本伸哉)

 

更新日:2015年2月2日
カテゴリ:研究交流

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