2022年度研究プロジェクト

 令和3年度よりスタートした中期計画(2021年度~2025年度)で掲げた3研究グループおよび調査部を中心に、日本を代表するアジア研究機関を目指した高水準の学術研究を行いながら、市のシンクタンクとしての経済研究機関という特異性をより活かした地元貢献を重視した調査研究に取り組む。

研究部

アジア-日本間の経済関係と現代的課題

グループ長:本間 正義

 日本とアジアとの結びつきやグローバル化など経済環境変化への対応に関する政策課題に焦点を当てて、その発生メカニズム・経済影響に関する学術研究を行うと共に、国内外の研究者と連携してアジアの共同発展に資するための政策研究を行う。研究テーマとしては、アジアと日本の間の人・物・資本等の移動からみた相互依存関係や国際情勢など近年発生した経済社会環境変化への対応策について学術研究と政策研究を推進していく。

外国人介護労働者に対する日本人の態度:個人属性と地域属性の影響
 近年の日本において、人口高齢化の加速に伴い、高齢者介護サービスに対する需要が高まっている。日本政府は介護福祉士不足問題の深刻さに高い関心を寄せており、外国からより多くの熟練した介護労働者を円滑に受け入れるために国の移民政策を改革し始めているが、現在日本で働いている外国人介護者の総数はまだ非常に小さい(2020年2月には16,000人未満)。日本政府の移民政策改革が日本社会から十分な支持を得ているかどうか、そしてどの要因が外国人介護福祉士の受け入れに対する住民の態度に影響を与えているかを検証することは必要かつ緊急な研究課題である。
 本研究では、主に三大都市圏と九州地域を対象とするアンケート調査から得られた個票データと適切な統計分析手法を用いて、以下の問題を解明する。
  1. 日本人住民の個人的属性が外国人介護者に対する態度にどのような影響を与えているのか?
  2. 外国人介護者に対する態度に地域的な違いはあるのか?違いがある場合、地域属性がどのような影響を与えているのか?

 また、これらの実証分析の結果に基づいて、関連政策提言を行う。

担当:戴 二彪
機関信頼の違いに関連する起源と決定要因
 信頼は社会関係資本の基本的な要素であり、経済発展を含む幸福の成果を維持するための   重要な貢献因子である。ただし、世界における信頼の格差が非常に高い。たとえば、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドなどの北欧諸国では、個人の信頼と機関に対する信頼が高い。一方で、アジアの多くの国では信頼のレベルは低い。さらに、信頼に関する国内格差も存在している。
 このプロジェクトの主な目標は、アジア諸国の機関的信頼に特に重点を置いて、信頼の違いの起源と決定要因を理解することである。特に、医療制度、銀行、教育、政治、裁判所、警察、ニュースメディアなどへの信頼の違いの決定要因を解明したい。機関信頼は社会関係資本の基本的要素であり経済成長を推進する投資、イノベーション、貿易のプロセスにとって必要な条件であるため、この研究は、日本を含むアジア諸国の長期的に持続可能な開発に関する政策立案に貢献することを目標とする。
担当:Pramod Kumar Sur
九州の農林水産物輸出拡大戦略に関する研究
 日本の農林水産物・食品輸出は2021年に1兆円を超えた。国内市場が人口減少に転じる中、日本の農業や水産業の成長のためには、市場を世界、特に近隣の東アジア諸国に求める必要がある。九州は北海道とならぶ食料王国であり、東アジア諸国への輸出に関しては北海道より地理的な優位性がある。
 九州の優位性を活かすためには、東アジア地域への農林水産物輸出の物流拠点を確立する必要があり、北九州は好位置にある。特に北九州空港は、九州で唯一の24時間空港として運用されており、韓国や中国北東部にむけた食料輸出の物流拠点としての活用を模索すべきである。
 現在、新型コロナ禍に苦しんでいるが、回復後の通常の経済状況に備える必要がある。東アジアでの食品市場を分析し、今のうちに九州の農林水産物の輸出拡大戦略を確立することが重要だ。私は2022年にこの目的のために研究を行う。
担当:本間 正義

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日本とアジア諸国が政策立案のために相互から学べる経験

グループ長:岸本 千佳司

 日本はアジアで最初に現代の先進国になった国で、様々な成功と失敗を経験してきたが、成長しつつあるアジア諸国にとって、いずれも貴重な参考になる。この領域では、日本の重要な経済協力パートナーとしてのアジア新興国が日本の経済発展過程・関連政策から何を学べるかについて調査研究を行い、研究成果に基づいて政策提言を行う。また、現代はもはや欧米のみから制度改革の洗礼を学ぶ時代ではなくなっている。この領域では、日本が近年成長著しいアジア諸国のダイナミックな経済成長と関連政策から何を学べるかについて調査研究を行い、研究成果に基づいて政策提言を行う。

アジア(特に台湾)のスタートアップ・アクセラレータの研究
 近年、国内外で、起業奨励とスタートアップ育成の土台として「スタートアップ・エコシステム」の構築が重視されている。エコシステムの構成要素としては様々なアクターが含まれるが、本研究は、特に「スタートアップ・アクセラレータ(Startup Accelerator)」に注目する。その理由として、アクセラレータがスタートアップ・エコシステムの中で、起業家・スタートアップの育成に直接的に携わることに加え、他の関連アクター(例えば、政府機関、大企業、投資家、大学・研究機関)との連携により、エコシステムのハブ的な位置付けになってきていることがある。アクセラレータの役割・ビジネスモデルにも様々なタイプがあるが、本研究では、近年、台湾でも大企業-スタートアップ連携が重視されていることに鑑み、主に大企業-スタートアップ連携促進に重点を置くアクセラレータを1~3社程度取り上げる予定である。研究調査の手法としては、面談調査を含めた現地調査の実施を主とするが、コロナ禍の状況は予断を許さず、オンラインによる面談実施等により柔軟に取り組んでいく。
担当:岸本 千佳司
医薬品アクセスの経済分析:入手可能性、使用意向、負担可能性
 世界中でおよそ20億人が必要な医薬品にアクセスできない状況が続いている。医薬品アクセスの改善は、世界全体の健康水準を向上させ、健康不平等を削減する上で重要な役割を果たす。医薬品アクセスの改善には薬価・保険制度の効率的な運用が不可欠である。
 本研究の目的は、薬価・保険政策が医薬品アクセスに及ぼす影響を定量的に評価することである。本研究は、中国における製薬企業や医療機関等の業務データを統合したデータベースを構築したうえで、医薬品アクセスを構成する3つの要素(入手可能性、使用意向負担可能性)の間のトレードオフを体系的に分析する。具体的には、以下の三つの実証研究を行う:1)医薬品の医療保険償還の変更による製薬企業の価格戦略、市場参入および新薬開発力の推定、2)財政的資源配分が医薬品の使用意向に及ぼす影響の推定、3)医薬品アクセスと健康アウトカムとの関連性の分析。本研究は三段階で行われる。第一段階(令和4年度)では、データベースの構築と解析を中心に進める。
担当:姚 瑩

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北九州市の活性化に重点を置いた都市政策

グループ長:坂本 博

 国内外の都市・地域振興成功例と関連政策を参考にし、北九州市の活性化に資する交通インフラ建設、環境ビジネス、都市の持続可能な発展などについて調査研究を行い、研究成果に基づいて政策提言を行う。

新型コロナによる外国人入国制限の非正規労働者賃金への影響
 近年における日本の所得格差拡大の原因の1つは、外国人単純労働者の増加による非正規雇用の賃金引き下げであると考えられてきた。
 しかし、新型コロナ水際対策の結果、単純労働者の入国数は急激に縮減し、たとえば2021年の技能実習は、前年に比べて、12.6%減り留学生も12.7%減少した。この急激な外国人入国制限は、その賃金引き下げ効果を分析するための貴重な機会を与えてくれる。
 新型コロナ禍は、原材料の価格の上昇や、需要の変化などの影響ももたらしたので、労働供給減少の影響だけを特定するのは簡単ではない。しかしたとえば、留学生減少のインパクトは、業種としてコンビニを選択するなど、対象調査職種を適切に選択することによって、この影響を分析することが可能である。
 本研究では、全国規模のデータでの分析と北九州のデータ分析の比較を行い、北九州における外国人労働市場の性格を浮き彫りにする。
担当:八田 達夫
北九州市における構造変化に関する経済モデルの開発
 本研究は、北九州市の地域活性化を念頭に、産業構造変化を描写する経済モデルを開発する。この研究では、『県民経済計算』のデータを利用し、産業別の付加価値データから生産関数を推計し、経済モデルを開発する。基本的には地域の産業政策を研究することになる。その後、各種シミュレーション分析を通じて、地域経済政策に関する知見を提供する。一例として、北九州空港の滑走路延伸で産業構造がどう変わるのかがあげられる。
担当:坂本 博
日本における大気汚染分布の変化の空間分析:1990-2013
 発電源は、環境汚染状況に直接関係している。 2011年の福島原発事故後、日本の発電源は天然ガスと石炭に大きくシフトした。 これは、大気汚染と、2050年までに温室効果ガスを80%削減しようとする日本の実現可能性に悪影響を与えると見られている。この研究は、空間分析の観点から、原発事件前後の大気汚染の変化とさまざまな経済指標を地方自治体レベルで考察する。
 さらに、各年の汚染レベルに基づいて境界を定義することにより、日本の地域区分を行う。 最後に、3番目、7番目、13番目のSDGsに関連する地域レベルでの政策提言を提供する。
担当:Alvaro Dominguez

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調査部

グループ長:田村 一軌
空港整備が地域経済に及ぼす効果に関する調査研究
 令和2年3月26日に那覇空港の第2滑走路が供用開始され、令和7年3月31日には福岡空港の第2滑走路が供用開始となることが予定されている。また北九州空港においても、令和2年度から滑走路延長計画に関する国の調査が開始され、PI(パブリック・インボルブメント)や環境影響評価などが進められている。
 本研究の主な内容は、このような空港滑走路の拡充および延長が地域経済に及ぼす影響を定量的に評価することである。コロナ禍において航空旅客が減少するなか、航空貨物輸送は堅調に推移しており、滑走路の拡充が航空貨物に与える影響および製造業や流通業を中心とする空港後背圏の地域経済に与える影響を分析することは重要である。また、ヤマトホールディングスが北九州空港を含む国内6空港を拠点に新しい航空貨物機を令和6年4月から運航することを発表するなど、北九州空港においてはその影響はすでに現れつつあり、現状把握を含む調査を行うことが急務である。
 本研究では、北九州空港を題材として、空港滑走路の拡充が地域経済に与える影響を把握し、定量的に分析する手法について研究を行う。
担当:田村 一軌

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2023年2月1日(水)に韓国のKBS 2TVで放送された『9階時事局』に、チャールズ・ユウジ・ホリオカ特別教...

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